《評価システムの目的》
一般的に、企業組織において評価を行う際の目的として、次の4点が挙げられる。それは、①昇給・賞与、②昇進・昇格、③能力開発、④後継者発見である。
① 昇給・賞与
評価を行う目的として、まず定期的な昇給のためという目的が挙げられる。昇給に関する評価と合わせて、賞与を決定する際の評価も行われる。ただし、日本の企業組織の多くでは定期昇給制度が採用されており、賞与支給額もある程度の基準が事前に決まっているため、この人事評価によって大きく変動するということはないようである。しかし、年俸制を採用している企業組織では、年俸制を採用していない企業組織に比べ、評価システムが重要な意味を持っているということができるだろう。
② 昇進・昇格
昇進・昇格は多くの企業組織において、昇給と連動している。つまり、企業組織内において、昇進すれば給与も同時に上がるということが一般的である。昇進や昇格によって、当該メンバーの担当する組織範囲も広がる。そのため、昇進・昇格にまつわる評価に関しては、専門能力が向上したかどうかを評価する場合もあれば、マネジメント能力が向上したかどうかを評価する場合もある。
③ 能力開発
能力開発については、後述の「能力開発システム」を参照していただきたいが、 評価システムの目的としての能力開発についていうと、能力開発に関連する評価としては、評価対象メンバーが将来的に能力を伸ばしていく上で身につけるべきスキルや能力が何であるかを決定するための評価といえるだろう。
④ 後継者発見
評価システムの目的としての後継者発見とは、将来の経営幹部となりうる候補者を組織メンバーのなかから選抜することを意味している。後継者発見を目的とした場合は、その評価対象者の潜在的能力を評価することになるのだが、評価すること自体よりも、そこで評価され選抜された人材を育成していくことが重要な課題となる。
《評価軸》
評価軸についてはどのような観点、切り口から行われているのだろう。ここでは日本企業のケースを中心に見て行こう。一般的な日本企業において、仕事に対する評価は次の3つを評価軸として実施されてきた。それは、①実績・成果、②能力、③態度・情意である。
① 実績・成果
仕事に対する評価軸のうち、実績・成果に基づく評価が最も客観的な基準に基づく評価になる。例えば、営業担当者であれば販売高が、研究開発担当者であれば開発件数や特許取得数が評価の基準となる。実績や成果自体は数値での評価が可能なため、評価担当者の主観が入る余地が小さくなる。
② 能力
能力に対する評価では、職務を遂行する能力の評価である。具体的には、分析力や判断力、企画力、リーダーシップ、交渉力など個人が持っている仕事の成果を出すための能力を評価対象者が持っているかどうかを評定していく。これらの能力は数値で測定できるものもあるが、能力の有無の判断は基本的に評価者の主観にゆだねられることになり、実績・成果に対する評価に比べ客観性に欠けるといわれている。
① 態度・情意
態度・情意に関する評価としては、仕事に対する態度や協調性、積極性などを評価することになる。これらに対する評価は情意考課とも呼ばれるが、これらの評価項目は測定すること自体が難しい上に、評価結果がどの程度客観性を持ち、仕事の成果につながるものであるか疑問視されている。企業組織によってはこのような情意考課を実施しない企業も多く見られるが、企業組織が協働のシステムであることを考えると、業務遂行にあたって協調的な態度は必要なものである。評価が難しいということと評価を行わないということは、別の問題であるということに留意すべきであろう。
《評価の難しさ》
仕事に対する評価は、基本的に個人を対象にして行われるが、上述のように組織は協働システムであり、評価対象者以外のメンバーからのサポートや支援を受けながら日々の業務がすすめられている。営業担当者の場合は、手続等の事務作業を行う事務社員からの支援があったり、顧客からの問い合わせへの回答を用意する製品開発担当者からのサポートがあったりする。
このようにどこからどこまでが評価対象者の実績となるのか、評価対象者以外のメンバーからの支援やサポートをどのように評価するのがかが難しい。このような場合には、担当者個人の評価のみでなくチームや部署全体への評価と組み合わせて評価することになるだろう。評価を行うにあたっては単純に数値化できない部分も多く、評価を行う評価者の主観に左右されてしまう可能性が高いことに十分留意する必要があるだろう。