競争入札もオークションの形式である。これは、参加者がお互いに独立に、他人の価格を知ることなしに入札をし、入札終了後公開して、最も売り手にとって有利な金額を入れた入札者が、その金額で商品を手にすることができる。通常の商品の場合、最も高い金額を提示した人がその値段で品物を買えるわけだ。公共事業の工事入札は、少なくとも形式上は、競争入札であって、この場合の「売り手」は公共事業を発注する国や地自体あるいは特殊法人で、商品は工事をする権利ということになる。
もっとも安い金額が、この場合売り手にとって最も有利な金額となる。競争入札の戦略的構造は、価格下落型競売とほとんど同じである。価格下落型競売は、競争入札で第1位の落札者以外の入札金額が公表されないケースとみなすことができるからだ。もし競争入札方式ならば5000円と入札しようとするのであれば、価格下落型競売方式で行われた場合にも5000円まで待つべきである。5000円まで下がる前に誰かほかの人が落札するとすれば、その人はもし入札形式であったならば5000円以上の入札をしたであろうから。
《インターネット・オークション》
インターネット・オークションはかなりの勢いで普及してきた。インターネット先進国で、しかも昔からオークションを利用して不要物の取引をする小さなオークション場がいくつもあるアメリカほどではないにしろ、日本でもすでにかなりの人がインターネット・オークションを利用しているし、インターネット・オークションに出品したい、あるいは掘り出し物を手に入れたいと考えている人まで含めれば相当な人数になるはずである。
日本で利用できるインターネット・オークションのサイトは多数あるが、現在日本のオークションサイトとして圧倒的に多く利用されているのは、ヤフー(Yahoo!Japan)のオークションである。アメリカで圧倒的な取引量をもつのは、オークション専門サイトのイーベイ(eBay)で、ヤフーオークションも日本語サイト以外では取引は多くなく、いくつかの国用のヤフーではオークションから撤退している。
しかし、オークションのルール自体はほとんど同じなので、以降は日本のヤフーのオークションを題材に話を進める。ヤフーは次のようなルールで競売を行っている。売り出されている商品について、商品の説明とそれを売り出している人の簡単な情報、それに競売時間と入札最低価格(現在までの最高入札価格)が指定されている。基本的なルールは競売と同じで、一番最後まで残った落札権利者が、その最後の金額で落札するのがルールである。
しかし、買い手が一堂に会して一気に勝負をつける競売とは違い、インターネット・オークションは、不特定多数の買い手が、各個人の都合のよい時間にアクセスして競売に参加できなくては意味がない。そこで、Yahoo!オークションでは、競売人がしだいに価格を競り上げていくのではなく、売り手が出品時に指定する競売時間内ならば買う意思のある人は、いつでも入札(ビッドbid)をすることができるようになっているという点が違いだ。
競り落とす意思のある人は、その時点での入札最低価格よりも高い値段を入札すれば、その時点での落札権利者となることができる。入札自体は、画面の指定された場所に金額を入力し、ボタンをクリックするだけなので、数秒で完了する。競売終了時の落札権利者が、その人の入札金額で、売り手から商品を買い取る権利を得ることになる。ただし、より高い入札金額といっても、もし1円、1銭の単位で上回る入札まで許していたのでは、いつまでたっても価格が上昇しない。
そこで、入札金額には最低の上げ幅が設けられている。最低の上げ幅は、その時点の最高価格が1000円以上5000円未満のときは100円で、5000円以上1万円のときは250円になっている。例えば、その時点の最高価格が3000円のときは、3100以上の入札でなければ受けつけてもらえない。したがって、ヤフーのオークションでは、買い手が、買い手のペースでしだいに価格をつり上げていく点が標準的な競売との違いとなっているわけだが、これは腕のよい競売人がいて、買い手の気持ちを汲みつつペースを上げながら値段を上げていくのと同じことである。